「無視」

見てし！見てし！
一匹のたぬきが、人々の憩いの場であり、待ち合わせ場所でもある駅前の時計塔の前で騒いでいた。
他のたぬきよりキレのある、と自分で思い込んでいるダンスは何よりの自慢だった。

ダンス！おどれますし！
他のたぬきより！いいたぬきですし！
きっつっね♪たっぬっき…
最後まで言っちゃうし！いいし！？




たぬき界隈でも禁じられた言葉を口にして、
うっ♪うっ♪まで言い切っても
道行く人の群れは構わず通り過ぎる。
こんなにたくさんのスズキがいるのに、誰も反応してくれない。

うっ…うっ…なんでし？

まるで全員でたぬきの存在を無視することを決め込んだように、何の反応も示さない。
誰とも目が合わないのが悲しくなって、たぬきはあたりを激しく見渡した。
ゴミ箱に頭から突っ込み、左右に揺れるしっぽを見つけた。
その傍らではションボリした顔で空き缶を振り、口を大きく開けてわずかに残った中身のを注いでいるたぬきがいた。



仲間達だし…！
仲間達ならたぬきのダンスを見れば一緒に踊らずにはいられないはずだし…！
おーーーい！おーーーーいし！まさよしーーー！
だがやはり、何の返答も得られなかった。
もう知らんし…
だが、話し声が聞こえてきて、たぬきは足を止めた。
「あいつも残念なやつだったし…」
自分の事かし？たぬきは耳をピクピクさせて聞き耳を立てた。
「うどんダンスに夢中で、たぬきもどきに後ろから喰われるなんてし…」
「言うなし…バカがうつるし…」
「まあアイツのおかげでみんな逃げ延びられたし…」
見えない…？
なんか、思い出してきたし…。



そうだったし…るどるふは…るどるふは…。
死んじゃったんだし…。

いつもみたいに踊ってたらもどきにしっぽを踏みつけられて。
そこからはたぬきの踊り食いだし…踊りたぬき冥利に尽きるし…とか考えながら命尽き果てたんだし…。

お腹も減らないし、しっぽも濡れないし、痛い目にも遭わなされないけれど。
魂というものがあるのなら。
この上なく残酷なことだし…。

お話したいし…誰か…誰か…さわって…。
やだし…消えたくないし…やだし…。




………消えれないしぃ……。

まるでこの世から隔離されたようだ。
リポップの輪からも外されてしまい、たぬきはその場でずっとジタバタし続けた。
それすらも誰にも見咎められず、やがてションボリ、トボトボとどこかへ去っていく。
どこまで行っても、このたぬきが何かと出会うことはありませんでしたし…。

オワリ